ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
駅前ショッピングと同居バレ
帝国暦九十二年 翠雫の月・竜神の日(現代暦:四月下旬)
学校が休みの週末、ソニアはリリスとユコと共に買い物に出かけるために、昼過ぎにポッターズ・ブラフの駅前に集合していた。
ラムリーザは昨日の誓い通りに同行しようとしたが、「これは女の集い」とリリスとユコに断られ、仕方なく屋敷で待つことになってしまった。
「一駅離れたところにいい店があるのよね」
駅前でソニアを見つけたリリスは、隣町に行くことを提案した。
「二人はよく行くの?」
「うん、そうよ。この前行ったのは、入学式の少し前かな」
「あー、あのときかぁ」
ソニアは初めてこの地にやってきたときに、駅で二人とすれ違ったことを思い出していた。記憶に残るほど、リリスとユコは華やかなのだ。そのとき、ラムリーザが目移りしたようなことを言ったから嫉妬したということは黙っていた。
「あー、そういえばソニアは特徴的だったから記憶に残っているわ」
リリスたちの方も、その日のことを覚えていたようだ。
「そうですわね、青緑色の髪って珍しいですし」
「そして、その『ふざけてんの?』ってレベルの胸、くすっ」
「胸の話はやめてよー、これでも困ってるんだから……風紀監査委員にはぐちぐち嫌味を言われるし……」
後半はどうしても口調が弱くなってしまう。今はラムリーザの「大きい胸が好きだ」の一言だけが支えになっていた。
エルム街へ向かう電車の揺れの中で、リリスが何気なく窓の外を指さした。
「ねえ、帰りに――ちょっとだけ寄り道してみない? ソニアの『いつもの場所』ってやつ、見てみたいの」
ユコも頷き、「お茶一杯でも。楽譜、見せてもらえたら嬉しいですわ」と同意した。
ソニアは一瞬だけ目を泳がせ、それから笑ってごまかした。
「え、ええ、まあ……片付いてたら、ね」
彼女の動揺を察したリリスは、クスッと笑うのであった。
駅一つ離れた町にある服屋は、三階建てのビルになっていた。ここポッターズ・ブラフ地方では最大規模の服屋のようだ。
「ここはエルム街、この地方だとここが一番大きな繁華街ね。それにこの店なら大抵のものが揃っているわ」
リリスはソニアを手招きしながら、先に服屋に入っていった。
「あたしだってね……あたしだって以前はラムに良いところを見せようと思っていろんな服を着ていたわ。それがもう全部この胸のせいで着られなくなったり、無理やり着ても変になるようになったんだから仕方ないじゃない……」
店の外から中を見たまま立ち止まり、ソニアはぶつぶつとつぶやいている。
「私たちが見てあげるから元気出すのですわ」
動かないソニアの背中をユコが押し、店へ入っていく。そうしながら、手でソニアの身体をさすって体型をチェックしているようだ。
「ふーむ、ソニアの体型は胸以外リリスとほとんど同じって感じですわね」
確かに、身長や体のサイズも近いものがある。ユコのほうは、ほとんど誤差レベルではあるが、二人よりわずかに小柄といったところか。
「……で、念のために聞いてみるけど、バストサイズいくらよ?」
リリスが振り返って問う。
「98cm……」
ソニアは恥ずかしそうに顔をそむけて、以前計ってもらったときの数字を答えた。
「想像以上の規格外……まあ、その見た感じだと、それも納得……かな」
リリスはじろじろとソニアの身体を眺めながら言葉を続けた。
「見たところウエストは私と同じぐらいだから、アンダーは65……Jカップね、くすっ」
「いったいどんな食事をすれば、そこまで大きくなるのでしょうか?」
「知らないわよ!」
「こほん、とりあえず、服装にこだわりはあるかしら? その分だとなさそうだけど……」
「ある。ミニスカートだけは譲らないわ。あと、できれば緑系のがいいかな」
ソニアは、プリーツの入ったミニスカートの裾を持ちながら言った。
「脚に自信があるのですね」
「それはいいかも。胸が大きいけど、脚を出していたらスマートに見えるものよ」
そういったことを話しながら、いろいろと見て回る三人である。
しばらくして、リリスが一着持ってきて見せた。
「ドレープカットソーとかならどうかしら?」
持ってきた服は、胸元にゆとりのあるカットソーだった。これならソニアの規格外の胸もなんとかなるかな……ということかな。
「胸元はドレープで逃がして、視線はVネックとアクセで誘導。丈はミニ、脚で『軽さ』を作る――それが今日の作戦ね」
ユコも、リリスの案に同意していた。
その後もリリスとユコの二人は、ソニアに新しいものを選んでやったり、自分たちのための服を見たり、靴を見たりするのであった。
そんなこんなをしているうちに日も暮れてきて、そろそろ帰ろうかという話になった。
「そうそう思い出した。せっかくだからこのままソニアの家にお邪魔してみようかしら」
「それはいいですわね」
買い物の後、リリスとユコは予定通り「ソニアのいつもの場所」に行くことにした。
「え、やっぱり来ちゃうの?」
「うん。何かマズイとか? あ、どうせ片付けできてないとかでしょ」
「そういうわけじゃないんだけどー……」
ソニアは現在、ラムリーザと同じ部屋で暮らしている。そのことがばれちゃって大丈夫かな……とか考えるのであった。
リリスとユコの二人は、中学時代からの親友で、よくお互いの家に遊びに行っている。そこで、新しく仲間に加わったソニアの家に遊びに行こうと考えたのだ。
「家というか、下宿だけど……まあいいか、こっちよ」
遊びに来たいという二人を無下に追い返すわけにもいかないので、ソニアは二人を案内して、住んでいる下宿先である屋敷へ向かった。
「そういえば、ラムリーザとよく一緒に登下校しているけど、家とか近いわけ?」
「え、ええ、まあね、あはは」
「幼馴染によくある、いつも朝は起こしてあげて、とかやってたりするのかしら?」
「起こしてもらって……る、かな、あは、あはは……」
そんなことを話しながらたどり着いた先は、割と豪華な造りの大きめの屋敷だった。
「へえ、大きな屋敷ですわね」
「ソニア、あなたこんなところに住んでいるの?」
「ええ、まあ、うん」
リリスの問いにぎこちなく答えるソニア。実際には彼女が主体で住んでいるわけではないので、あまり大きな顔はできないのだ。
「へー、ソニアってお金持ちだったんですのね」
「あー納得。そのブレスレットはともかく、指輪はかなり高価なものだと思ってたんだ」
「いや、その……」
どうにもきまりが悪いソニアであった。
玄関の前でソニアの足が半歩だけ止まった。鍵を回す音が、やけに大きく響く。
屋敷の中に入ると、玄関先は大きなホールになっていて、正面に階段があった。玄関から階段まで、赤い絨毯が敷かれている。そして一階の一部は食堂になっているようだ。
ソニアは階段を上り、廊下を進んで行って、突き当たりの部屋の前で立ち止まった。
「えーと、あたしが住んでる部屋はここよ」
ソニアに促されて二人が部屋に入ったところで、二人は絶句した。
「広い……」
そこは五十畳ほどの広さがあり、まず目に飛び込んだのは窓から差し込む光だった。
手前には深い緑のソファとテーブル、その奥の壁際には大きなテレビが据えられている。テレビにはゲーム機もつながっているようだ。
視線を奥へ向けると、大きなベッドとタンスが並び、寝室と居間がひとつになったような広間だ。
隅にはドラムセットとベースギターが置かれ、まるで音楽家のアトリエのようにも見える。
リリスとユコは、しばらくの間驚いた顔で黙って見ていたが、いくつか引っかかる点も見つけ出していた。
「ソファーにおいでよ、ゆっくりしよーよ。あ、格闘ゲームでもやる?」
二人は、ソニアの呼びかけに答えてソファーに向かいながら、先ほどから引っかかっている点を整理してみる。
まず、ベッドがダブルベッドで枕が二つ並んでいる。テーブルの上には学校に持って行く鞄が二つ。そして壁には女物の制服だけでなく、なぜか男物の制服もかかっているのだ。
「ソニア、いい?」
違和感を確かめるためにリリスは聞いてみる。
「ここ、本当にあなたの部屋?」
「えっと……、半分は……そうかな……」
「半分って何? それと、あの壁にかかっている男物の――」
秒針が三拍ほど時を刻む。湯気の匂いがわずかに漂った――
ガチャリ
そのとき、部屋の一角にあったドアが開いて、中から湯気がもわっと飛び出した。風呂場に通じているドアだったのだろう。そして、そこから白いバスローブにくるまったラムリーザが姿を現した。
「ソニア、帰ってきてたか。空いたぞ、入ってきたらいい」
頭をタオルで拭きながら、普段と同じように喋る。まだリリスとユコが来ていることには気が付いていないのだ。
「ということで――」
そこで顔を上げたところ、ぽかーんとした顔でラムリーザを見つめるリリスとユコと目が合い、言葉が途切れる。
「…………」
なんとも言えない沈黙が場に漂う。
ソニアは気まずそうに目をそらしてそわそわしているし、リリスは徐々に落ち着きを取り戻し、鋭い目でラムリーザを見つめている。
一方ユコは、突然現れた風呂上がりの男性に驚いたのか、目をきょろきょろさせている。
その一方でラムリーザは、とくに何も考えていないようで、大きなあくびをしていた。
「なんだ来ていたのか。ようこそ、リリス、ユコ。まあ、ゆっくりしていってくれたらいいよ」
ラムリーザは、二人をただの客とみなしていたので、普段の口調で平然とそう言い切った。そのまま、何事もなかったかのように、風呂上がりに夜風に当たるため、バルコニーに出て行くのであった。
リリスはラムリーザが出て行くまで目で追っていたが、外に見えなくなるとソニアの方を振り向いて言った。
「なるほど、そういうことだったのね」
どうやら、いろいろと察したようだった。
一方、ユコは相変わらず動揺している。
「あのっ、あの、ソニア? ソニアの家の浴室からなぜラムリーザさんが現れるのですか? ソニア、いいの? ラムリーザさんが家に入り込んでいてっ……」
あたふたしながら問い詰めるユコをソニアはなだめて言う。
「ユコ、落ち着いて。えーとね、えっとね……ここはあたしの家というより、ラムの家……じゃないね。ラムの親戚の家なの。あたしは同じ部屋に住ませてもらっているのよ」
「それって、それって……」
ユコはまだ落ち着かないが、その横でリリスは冷静に言う。
「同棲ね」
「…………」
ソニアは照れくさくなって顔を赤くし、リリスから目を背けた。
「そっか、ソニアとラムリーザって付き合ってるんだ。それで私が誘いをかけても彼は乗ってこないんだ。そしてそのアクセサリーとか、なんかいろいろ納得した」
「いつもよく一緒にいる時点で、なんとなくそう思ってましたけど、一緒に住んでいるなんて想像もしてませんでしたわ」
「てへへ、実は付き合ってました」
そういってソニアは舌を出して微笑むのであった。
ラムリーザがバルコニーから部屋に戻ったとき、すでにリリスとユコは帰った後だった。
ソニアはソファーに腰掛けて一人でゲームをやっている。ラムリーザはその隣に座り、のんびりとゲーム鑑賞を始めた。
「あっ、そうだ。今日買ってきた服見る?」
ソニアは傍にラムリーザが来たのに気が付いて、早速今日買ってきた服を見せようとした。
「せっかくだから見ようか」
そこでソニアは、胸元がゆったりとした薄青色の服に着替えて見せるのだった。
「あ、それいい。絶対そっちの方がいいよ。よし、このだぼだぼニットは封印、な」
「えへ、この服増やそっと」
「同じものを増やしたがるなぁ、君は……」
相変わらず、服装に無頓着なソニアであった。
その一方で、ソニアとラムリーザの同居はリリスとユコに知られてしまった。
それは少しだけ気恥ずかしくて、でもどこか肩の荷が下りたようでもあった。隠していたわけではない。
けれど、わざわざ言うことでもないと思っていたことが、今日、自然な形で表に出たのだ。
ソニアは新しい服の裾をつまんで、少し照れくさそうに笑う。その笑顔を見ながら、ラムリーザは思った。
もう、この町での自分たちの日常は、二人だけのものではなくなりつつある。友達がいて、学校があって、部活があって、その中に「一緒に暮らしている二人」としての自分たちがいる。
それも、悪くない。
窓の外では、夜の駅前通りの灯りが静かに瞬いていた。
ポッターズ・ブラフでの生活は、また一歩だけ、先へ進んだのだった。